「歌わない」という選択
3人のライブを見るのが怖かった。
ジャニーズが「Smile Up ! Project Johnny's World Happy LIVE with YOU」の一環として、 ライブ配信を行うことになり、そこにNEWSの文字があり、3人でパフォーマンスするのか、と思った。
どうなるのか想像がつかなかった。
3人で大丈夫なのか、手越祐也がいないと成り立たない曲なんて数えきれないほどあるのに。
手越祐也が今、芸能活動を休止している件についてもいろいろと思うところがあるのだが、それは割愛する。
このライブを見るか見ないか、とても悩んだ。
4人になってからのNEWSは、手越祐也の歌唱力が必要不可欠な楽曲が数多く存在していて、果たしてそれを3人で歌えるのか、という不安と、逆に歌えてしまったのなら、手越祐也はいらないということなのか、という悲しみを抱いてしまうと思っていた。
3人で成功したらそれはそれで手越祐也の必要性のなさを感じてしまい悲しくなる。
物足りないライブになったらそれはそれで「やっぱり…」と落胆してしまう。
どちらになってもどうしようもない、と思っていた。
一体どんなセットリストにするのだろう。3人でどんな会話をするのだろう。
手越祐也の不在には触れるのだろうか。
手越祐也がいなかったかのように、手越祐也のパートを3人で歌うのだろうか。
4人になってからの曲は、Cメロや大サビ前の落ちサビに手越祐也のソロパートを有している曲ばかりで、ロック系の曲には手越祐也の高音フェイクやシャウトが必要で、どの曲にも手越祐也のハモリがあって、だから、3人で歌える曲を数えるほうが早そうな気さえした。
それほど手越祐也は、NEWSが4人になってから「エース」で「特攻隊長」で「センター」で、「矢面に立って批判を受ける人間」だった。
「センターに立つんだから、誹謗中傷はすべて俺が受け止める」と、4人の中で一番幼い、芸歴も短い彼が言ったのだ。
その姿がとても泥臭くて、とても美しく感じて、手越祐也は傷つきながらも3人を守るために戦っていた人間なのだと、強くそう思っている。
それでもやはり、3人がどのようなライブを描くのか、見ないといけない、と思った。
何を言うにしても見ないと始まらないと、そう思ったからだ。
緊張した。
無難にデビュー曲の「NEWSニッポン」を歌うのか、「U R not alone」を歌うのか、「チャンカパーナ」を歌うとしたら最後の手越祐也のパートはどうするのか。
JUMPのライブが終了し、そのときがやってきた。
最初に流れたイントロ。
それは、予想外の曲だった。
まだ未発表の曲をやる、という前振りはあった。
増田さんが今出演しているドラマの主題歌をやるのかと思っていた。せっかく初出しなのに、手越祐也がいないのか、と寂しく思いながら。
流れてきたのは、今年発売されたアルバム「STORY」内に収録されている「クローバー」だった。
驚いた。
このクローバーという曲は、メロディーに過去発売された既存曲をオマージュしたものがふんだんに使用されており、発売当初からファンの間では評判の高い曲だった。
この曲には、あるひとつの特徴がある。
すべての歌詞が、それぞれのソロで歌われる、ということだ。
はじめに増田さんが一人で歌い、増田さんが終わったら加藤シゲアキがソロで歌い、小山さん、手越祐也、と、4人でユニゾンする箇所が一か所もなく、4人のソロをひとつにまとめたような曲なのだ。
だからこそ、手越祐也のパートをどうするのだろうか、と思った。
小山さんが歌うターンがやってくる。
小山さんで歌を切り上げて別の曲にいくか、手越祐也のパートを3人で歌うかのどちらかかな、と思った。
手越祐也のパートがやってきた。
メロディーが流れる。間奏にしては、いくらか長い、そのメロディー。
手越祐也のパートは、歌われなかった。
手越祐也が歌う場所を、残してくれていた。
心が震えた。
なんてこの3人は手越祐也のことを大切にしてくれるのだろうか。
手越祐也はどれほどこの3人から必要とされているのだろうか、と。
手越祐也のパートのラストの部分を、3人のユニゾンで歌いあげていて、そこの歌詞が、手越祐也に訴えかけているような、祈りを含んだ歌声だった。
「ずっと同じ景色見てきたね 君がいるから幸せ 幾千の悲しみや別れ乗り越えて 永遠に君に幸あれ」
この四人は、ずっと同じ景色を見てきた。
常に前に、2人のエースが立っていた時代から。
何度も別れを繰り返し、活動休止を経て、イチゴのないショートケーキと揶揄されようとも、それを4人で乗り越えてきたのだ。
明るく「Weeeek」が歌われる。初見の方も知っているであろう、NEWSの代表曲。いつもはサビで手越祐也のハモリが聞こえるのにそれがなくて、やはり寂しいと感じた。
けれどそれ以上に、3人で歌えているということに驚いた。
テゴマスというユニットがあるように、増田さんの歌唱力の高さはジャニーズの中でも有名だ。
しかし増田さん一人でなんとかなるだろうか、と不安があった。
小山さんと加藤シゲアキの、ここ数年の歌唱力の上達具合は目を見張るものがあった、と思っている。
そしてそれはきっと、手越祐也がいたからなのだと思うのだ。
手越祐也の歌に対するプライドの高さと、絶対的な自信、それを掲げるために行われている努力を、一番近くで見てきた彼らだから。
フォロワーさんがこんなことをつぶやいていた。
***
「歌で勝負したい」と、この9年間グループを牽引しつづけた手越さんがいない状況でも、ちゃんと歌だけで勝負できるようになったことがなによりも嬉しいなと思う。
***
このツイートに、深く感動したし、大きくうなずいた。
手越祐也が「ジャニーズは歌が下手」という固定観念を切り崩してほしい、とジャニーさんに言われて、歌に関してプライドを持って活動してきたからこそ、3人でも十分な声量で、音がずれるようなことも、声が割れるようなこともなく、歌えていたのだと思う。
今回のライブでは、NEWSはダンスナンバーを一曲もいれない、という攻めたセトリだった。
ジャンプするとか、体を動かすとかそういうのはもちろんあったけれど、動きをそろえて振り付けを踊るという意味でのダンス曲は一曲もなかった。
(小山さんのソロではダンスしてたけれど、3人のパフォーマンスという意味で)
「あんまり踊らず歌でステージもたせられるのもすごいですね」と、WEST担のフォロワーさんから言われて、とてもうれしかった。
この3人は、ダンスをせずとも手越祐也が不在だとしても、歌唱だけで魅せることができるのだと、誇らしい気持ちになった。手越祐也という歌の要を失った状態で、手越祐也の分まで歌に心を込めているように感じられて、胸を打たれた。
「エンドレス・サマー」が歌われる。
この曲も、なるほどな、と思った。大サビ前の落ちサビは本来手越祐也のパートだが、そこは増田さんが歌っていた。この曲の落ちサビはそこまで高いキーというわけでもないし、曲調的に増田さんの柔らかで温かく優しい歌声が合うメロディーだから、違和感なく聞くことができた。
ここから、3人それぞれのソロ曲のターンになる。
ここも上手いな、と思った。
手越祐也のことだけではなく、当たり前だけれど、3人のファンのことも考えているセトリだと思った。
また、3人という少人数だからこそできるセトリでもあった。
このあとは何を歌うのか、そう思いながら流れてきたのは「U R not alone」だった。
この曲を私は、「手越祐也の曲」だと思っている。
「拝啓 あの日の僕へ 今はココで立っています 誰かに笑われた夢を 今もココで見続けています
時に見失いそうになって 時に全てをあきらめて あせって望んでは傷ついた 僕の中の弱虫笑ってた」
もうこの1番のAメロだけで手越祐也の半生なのだ。
またこの曲は、「ファンとNEWSをつなぐ曲」でもある。
サビの部分がファンの合唱で、NEWSはそれに耳を傾ける、というのがライブの定番だ。
私たちはその歌詞をNEWSに届くように、叫ぶように歌うのだ。
サビに至るまでの手越祐也のパートは、3人で歌いつないでいた。
難しいかと思っていたハモリも、しっかりと3人でこなしていた。
では、Cメロは?
Cメロには、私が「手越祐也にしか歌えない」と思っているパートがあった。
そこをどうするのか、そんなことを考えている暇はなく、そのときはやってきた。
「あの日つまずいて しゃがみこんでしまうほどの 痛みさえ」
歌詞の字幕が流れる中、誰の歌声も聞こえない。
3人の、「歌わない」という選択だった。
マイクを通さずに口ずさむ小山さんと加藤シゲアキ。ただまっすぐ、遠くを見据える、増田貴久。
あまりにも、最高という言葉で片付けるのが惜しいほど、最高な選択だった。
手越祐也がそこまで重要ではない曲を選ぶとか、手越祐也のパートを代わりに3人で歌うとか、そういう選択はいくらでもできたはずなのに、それをしなかった。
ここは手越が歌うところだから。という3人の思いが、そこにあった。
こんなにも思われている、NEWSのセンター。
手越祐也が帰ってくる場所を用意してくれている、手越祐也のことを誰よりも大切に考えてくれている3人。
観る前はあんなにも不安でいっぱいだったのに、たった30分程度のライブで、こんなにも心を打たれるとは、数時間前の私では予想もしていなかった。
他のグループはMCをしていたのに対し、NEWSのMCがなかったのも、よかったと思う。
3人でわちゃわちゃすることだってできたと思う。
だけどそれを観たら、「3人でも楽しそうじゃん」「手越祐也がいなかったことになってるじゃん」と思っていたと思う。だけど、「手越祐也が出演できずにすみません」と謝ることもできないだろう、とも思っていたから。
手越祐也についての謝罪をせず、だからといって手越祐也をいなかったことなんかにはしない、「手越祐也にしか歌えない部分を歌わない」という方法で、ウルトラCをきめてみせてくれた3人。
私は、この30分たらずのライブを、きっとずっと忘れないだろう、と思った。